2012年1月6日金曜日
2012年1月6日金曜日
海の子守歌『ドラゴンクエストⅢより』作詩 /及川恒平 作曲/すぎやまこういち
【2012年記】
ファミコンの時代、ぼくが最初に始めたのは、将棋対局ソフト。
三十代後半の、だあれもともだちというものがいないころのことだ。
そんな境遇の自分にとっては、最良の遊び相手であった。
しかし、当時若者の間では圧倒的に流行しはじめた、
ドラゴンクエストを筆頭に、いならぶロールプレイングゲームには、なんの感心も無かった。
と、言い放ってみるわりには、いつの間にかドラゴンクエストの世界にはいりこんでいったのだった。
だからぼくのRPG体験は、数年の遅れがあった。
椙山さんからの作詞依頼はドラクエの第5巻のころだから、待ってました、といったところ。
書くにあたって、第1巻から順番に第5巻までゲーマーの日々を過ごした。
ゲーマーといってはばからない理由は、ヒマジンであるのをいいことに、
徹夜してのゲーム三昧だったからだ。ぼく的には第3巻が好きだ。
そして、この巻を推薦する大きな理由のひとつが、
「海の子守歌」として書かせてもらったこの曲があったからなのだ。
深夜のけだるい時間帯にこの曲が流れてくるシーンに出くわした時、
ゲームとしての進行はなんのその、聞きいっていたものだ。
ファミコンはやがてスーファミ、つまりスーパーファミコンの時代をむかえ、
やがてはプレステ、つまりプレーステーションをはじめとする、ゲーム機が、
群雄割拠する時代にはいっていった。
ついでながら、ぼくがはまったゲームは、
ドラクエのほかには「女神転生」「クーロンズゲート」といったところ。
「ファイナルファンタジー」ももちろんやったが、
このゲームは主人公たちが、靄にかすむ草原をかけまわるシーンが好きだったからだ。
ただ意味なく駆け回ってはモンスターたちと出会った。
たたかうことになるのだけれど、たたかわずにただ走り回っていたかった。
なぜなら、このゲームも走り回っているときの音楽に哀愁がありすきだったからなのだ。
だから、そんなシーンがなくなって以降は近づいていない。
歌作りの解説からかんぜんにいつだつしてしまったが、
音楽というものは、こんな古い記憶とともに生きのびるものらしい。
★
【2003年記】
テレビゲーム機が、まだファミコンがおもだった頃のことだ。
椙山さんの関係者からゲーム音楽に詞を書いてみないかとの誘いがあった。
今思えば、それを待っていたかのように、
ぼくはドラゴンクエストという大流行のゲームをはじめたのだった。
第4作目が発表されたころだったと思う。
第5作『天空の花嫁』のエンディグテーマ『結婚ワルツ』を歌にして
ルーラというデュオが歌うことになっていた。
それを含め数曲に詞を書いた訳だが、
『海の子守歌』はぼくがシリーズで一番好きな3作目に登場する曲だ。
そしてぼく自身がリクエストしてこの歌をかかせてもらったのだ。
器楽曲を歌にするということは、思わぬ壁がある。音の高低の変化も歌用にはできていない。
ということは、それに載せる言葉も不自然になりやすい。
横の流れも、不意にシロタマ、つまり二分音符などの連続するところが出てきたりもする。
この一音に日本語の一音節を丁寧にのせていくと、冗漫な歌にしかならないことが多い。
そういうシンドさはあったものの、
ドラゴンクエストの音楽を歌にするという誘惑にはあがらいがたいものがあった。
楽しい仕事だった。
その上のちに、ぼく自身のフォークカブァCDに『特別参加』してもらった。
実は、それまでたびたびこの歌をぼくも人前で歌っていたのだが、
モト器楽曲は歌いにくいというかってな理由で、
ほぼ原曲の形をとどめないものにして披露していた。
だから作曲者の椙山さんの前で歌ったことはない!
しかし、記録にとどめるとなるとそうもいかず、譜面を前に直立不動で録音したのだった。
歌詞の内容としては、海の持つ多様な表情が言い表せたらと思った。
歌としては、過去のオーソドックスなイメージに頼った方が伝わりやすいことが多い。
けっこうすばやい時間の流れの中で伝えるのが歌だから、当たり前と言えば当たり前だ。
イッパツ勝負の流行歌の世界では必須条件ともいえる。
作詞家たちは、どこかで独自性も発揮しなければならず、今日も苦労しているのだろう。
海の子守歌『ドラゴンクエストⅢより』
海のように祈ってほしい
あわせた手がはれやかに汗ばむほど
海のように忘れてほしい
口笛吹く少年と見まごうほど
ほら
もとよりそこにあるやすらぎ
まだ 気づかなくても
そのはるかなまなざしの先には
海
はじまりの海
海のように信じてほしい
握った手がいつになく無口なほど
海のように歌ってほしい
時計のない休日の日暮れまで
ほら
おのずとそこにあるしあわせ
もし気づかなくても
そのかすかな手ざわりの中には
海
はじまりの海